
日本酒の辛口とは?最近は甘口が人気?
日本酒やワインなどの味わいについて「辛口」と「甘口」で区別されることがありますが、この記事では日本酒の「辛口」とは、どのようなお酒なのか考えていきます。
一般的な辛口の定義や意味から、個人的な考えまでを通して、日本酒の楽しみ方について視野を広げられればと思います。
日本酒における辛口の定義
日本酒の「辛口」は、日本酒度という数値で決められます。日本酒度とは、水の比重とお酒の比重との差を表す数値です。水の比重を1とした場合の差を表すため、水より重いお酒は、日本酒度がマイナス表記、軽いお酒はプラス表記となります。
では、お酒が重くなる(軽くなる)要因はなんでしょうか。それは糖分とアルコール分です。糖が含まれると水より重くなり、アルコールが多いと水より軽くなります。そのため、日本酒度がプラスのお酒は、糖分が少なくアルコール分が高くなり、辛口ということになります。
一般的に日本酒度がプラス5以上のお酒が辛口とされています。日本酒度をラベルに記載している銘柄も多くありますので、選ぶ際の参考にされると良いでしょう。
日本酒度のほかの要因
日本酒度によって辛口かどうか区別されることを書きましたが、酸度も味わいを左右する一つの大きな要因です。酸度が高いとキリッと引き締まった印象を与えるため、より辛口に感じられやすいと言われます。そのため、酸度が高いものは、日本酒度が同じお酒でも辛口と表現される場合もあります。
しかしながら、酸度が強くなると、その味わいも濃く感じられます。そのため、多くの人が抱く辛口のイメージである「淡麗なすっきりした味わい」からは離れていきます。ここで淡麗辛口か濃醇辛口かという新しい区別が生じます。
まとめると、
淡麗辛口:日本酒度が高い。酸度は低め。すっきりとしたキリッとした味わい。
濃醇辛口:日本酒度が高く、酸度も高い。キリッと引き締まった印象だが、しっかりとした味わい。
淡麗甘口:日本酒度が低く、酸度も低い。すっきりとしたまろやかさを感じる味わい。
濃醇甘口:日本酒度は低く、酸度が高い。フルーティーさやコクを感じやすい味わい。
といった区別ができると思います。ただし、造り方によって同じ区分に分類されるお酒でも、全く違う味わいを見せます。同じ淡麗辛口でも、とても綺麗でキリッとしたお酒もあれば、薄っぺらく水っぽいと感じるものもあります。どれが良いというものでもありませんし、日本酒度と酸度で選んだのに、思っていたのと違ったなんてこともあります。
淡麗辛口が好まれた理由
先ほどあげた4つの区分の中でも「淡麗辛口」は、日本酒やお酒に詳しくない人でも一度は聞いたことがあるのではないかと思います。では、なぜ「淡麗辛口」が有名になったのでしょう。
それは、日本酒の歴史と大きな関わりがあります。戦後の米不足や貧しい時代に日本酒の生産量を増やすため、「三増酒」と呼ばれる糖とアルコールを添加して3倍に薄めたお酒が流通していました。糖とアルコールを添加するため、三増酒は甘ったるい味と粘っこくまとわりつくような口あたりで、悪酔いもしやすいと言われています。このような安く品質の悪い日本酒のイメージにより、日本酒が苦手という人が増えていったそうです。
そのような中、80年代に入ると、日本酒の地位挽回を目指すこだわりを持った蔵元たちが、すっきりとした淡麗辛口の純米酒や吟醸酒、生酒といったものを盛んに世に送り出しました。特に新潟で作られた八海山、久保田、越乃寒梅などの有名銘柄の淡麗辛口が評判を呼び、良い酒の代名詞として使われて来ました。
このあたりの話は、「夏子の酒」という漫画を読むとよくわかります。
近年のトレンド
近年のモダンな日本酒と言われる人気の銘柄は、どちらかというと甘口でフルーティなフレッシュ感と酸が立ったお酒が多いです。一説には、洋食などの濃厚な食事にも合わせるために甘口で濃厚な味わいに、そして濃厚な味わいにバランスをもたらすため強めの酸が必要になったとも言われています。

また、ワインのように華やかな芳香が好まれることも甘口に進んだ一因だと考えられます。香気成分は苦味の感受性を高めるため、香りが強くなると苦味も感じやすくなる、そのため甘みと酸によって飲みやすさのバランスを補う必要があるのです。
もちろん最近の日本酒が甘口フルーティーを売りにしているものばかりではありません。甘みではなく旨みを特徴としたしっかりとしたお酒など様々ですが、それはまた別の機会に書きたいと思います。
辛口の楽しみ方
では、辛口のお酒にはどのような楽しみ方があるのでしょうか。私は、お寿司やお刺身には、すっきりとした辛口のお酒が合うと思います。特にお寿司には、シャリに糖質が多く含まれるため、糖度の高いお酒と合わせると食べ疲れ、飲み疲れを起こしやすいと思います。

また、すき焼きや焼肉などは、甘口のお酒も辛口のお酒どちらも合わせられると思います。もともと日本酒とワインではマリアージュの考え方が異なります。ワインは、濃厚な料理には濃厚なワイン、フルーティな料理にはフルーティーな香りのワインと、料理の味を増幅する装置としてマリアージュが考えられています。対して、日本酒は濃厚な料理には口をさっぱりと洗い流しリセットしてくれる淡麗辛口のお酒を合わせるように考えられてきました。気分や好みに合わせて、どのように料理を楽しむかでどちらも楽しめると思います。
他には、寒い季節には熱燗にすることも良いでしょう。日本酒は温めると甘味や酸味を感じやすくなりますので、濃醇なお酒ですとかなり重口な味わいになると思います。淡麗辛口や辛口で旨みのあるお酒を温めるととても美味しいと思います。私は、幅広い温度帯で楽しめることが日本酒が誇る素晴らしい魅力の一つであると考えていますので、辛口酒を燗にして楽しむこともおすすめしたいと思います。
